脳梗塞の予防:生活習慣病の治療、禁煙、適度な運動ほか

脳卒中は、脳血管が破れることで出血(脳出血、くも膜下出血)したり、脳血管が詰まる(脳梗塞)ことで起こります。60年代頃までは、脳卒中に占める脳出血の割合は約80%ありましたが、高血圧治療の進歩や減塩などによる粗食生活の意識改善などによって、その比率は徐々に減少してきました。それに代わって台頭してきたのが、現在では脳卒中全体の60%を占めるに至った脳梗塞です。

脳神経内科の医師

脳梗塞は早期の診断、血栓溶解療法(t-PA治療)に代表される治療法、急性期からのリハビリ開始などの分野で進歩しており、従来に比べて社会復帰を果たす患者さんは大きく増加しています。しかし、これらはあくまでも脳梗塞発症後の対応です。脳梗塞は発症すると言語障害や運動麻痺など後遺症が残ることが多いため、予防が重要となります。

脳梗塞は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドローム、心房細動、喫煙といった危険因子の該当数が多い人ほど、発症リスクは高くなります。脳梗塞の研究が進んだ今日では、これら生活習慣病の予防と治療、禁煙、適度な運動習慣、心房細動のある人は抗凝固薬を服用すること、野菜と果物を積極的に摂ること、ストレスの解消に努めることで、発症リスクを低下させることができることがわかっています。

高血圧の治療
まず取り組むべきなのは、脳梗塞の最大の危険因子である「高血圧」への対策です。脳梗塞は血圧が高い人ほど発症リスクは高まり、なかでも早朝に血圧が高い人は要注意です。高血圧を予防する第一歩は食生活で塩分の摂取量を減らすこと、いわゆる「減塩」です。高血圧の患者さんが入院している医療機関では、1日6g未満の塩分を病院食として出しているところが多いようです。

自宅で測定する場合の高血圧の基準は、135/85mmHg以上となっており、既に降圧薬を服用している患者さんは、合併症の有無によって目標数値は異なるものの、少なくとも135/85mmHgを下回る血圧を目指します(後期高齢者は150/90mmHg未満)。近年の高血圧ガイドラインでは、130/85mmHg未満を「正常血圧」と定義しています。

糖尿病の治療
脳梗塞の危険因子として高血圧に次いで気をつけたいのが、成人の約5人に1人が該当もしくは予備軍とされる「糖尿病」の治療です。糖尿病の治療の目標は、脳梗塞の予防のほか、全身血管合併症の発症の悪化を抑えることです。

過去1~2ヶ月の血糖状態を把握できるため、糖尿病の患者さんの血糖コントロールの指標として「HbA1c(血中グリコヘモグロビン)」が広く用いられています。国際基準では、HbA1cが6.2未満を「正常」、6.2~6.9未満を「糖尿病予備軍」、6.9以上を「糖尿病」としています。

糖尿病の治療のためには、HbA1cや血糖値を正常に保つためには、高インスリン血症を予防するなどの管理が必要です。高血圧を合併している場合は降圧薬などによる厳格な血圧の管理が、また脂質異常症を合併している場合はスタチン投与による脂質管理が、脳梗塞の予防につながります。

心房細動の治療
高齢者に多くみられる不整脈「心房細動」がある人の脳梗塞の発症リスクは、そうでない人に比べて最大で5倍も上昇するとされています。これは心房細動の人は心臓で血栓がつくられやすいため、それが血流で脳に運ばれて脳の血管を詰まらせる(脳塞栓症)からです。

血液の凝固因子の生成を促すビタミンKの作用を抑えるワルファリンという薬を服用し続けることで、脳塞栓のリスクを大幅に低下させることができます。近年はダビガトラン、アピキサバン、エドキサバンなど非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)と呼ばれる新しい薬も登場しています。

脂質異常の治療
悪玉のLDLコレステロール値が高いと、脳梗塞の発症率が高まります。治療には、LDLの低下作用に加えて中性脂肪の低下作用、善玉のHDLの上昇作用を持つスタチン、イワシ由来のEPA(エイコサペンタエン酸)を利用したEPA製剤などを服用します。

タバコは脳卒中の危険因子

禁煙
喫煙年数が長い人であっても、禁煙を3年継続すると脳梗塞の発症リスクは低下していきます。喫煙を原因とする病気はいろいろありますが、いずれの発症リスクも1年以上の禁煙で約50%低下し、5年以上の禁煙で非喫煙者レベルまで戻すことができます。高血圧の方でタバコを吸っている場合、禁煙をしない限り降圧薬による脳梗塞の予防効果はほとんどありません。

近年は禁煙外来を設置している医療機関が増えています。過去に禁煙に挫折した方でも専門医と一緒に治療を行うことで、禁煙の成功確率は大きく上昇します。禁煙治療は保険診療で受けられる(簡単な条件あり)ので、一度チャレンジしてみましょう。

スポーツで血圧低下、ストレス解消

適度な運動の継続
ジョギング、速足のウォーキング、サイクリング、水泳などの有酸素運動を習慣的に1日30分以上継続して行うことで、高血圧の人は血圧が下がり、糖尿病の人はインスリンの感受性が高まり、脂質異常症の人は善玉のHDLコレステロールが上昇するというメリットがあります。

脳梗塞は再発率が高いため、治療と並行する形で、食事療法と薬物療法を中心とした再発予防に取り組むことも重要となります。治療薬による対策は、抗血小板薬や抗凝固薬など血液を固まりにくくする薬を服用することになります。これらの適切な服用で、脳梗塞の再発率を約30%低下させることができるとされています。

ただし、薬の副作用として出血しやすくなり、止血しにくくなるため、脳出血などを招くこともあるため注意が必要です。リハビリと薬の内服を行いながら、入院中あるいは外来で定期的に血液検査やMRI検査を実施し、コントロール状態を確認します。